そして私も、そんな魔力にやられて帰国を延ばすことにした1人だ。
当初、なんとなく「1年半くらいかなー」と思っていた。学生ビザの有効期限は5年間あるものの、その期間を丸ごとNYで過ごしたら35才になっちゃうし(!)、1年半くらいの間にNYのギャラリーとのコネを作って、あとは日本とNYを行き来しながら作品を発表したいなーというのが本音だった。

ある時、知り合いの紹介で、日本からギャラリーを探しに来たアーティストの人と会うことになった。その人は1ヶ月半のNY滞在の間に、個展をする会場とビザのスポンサーになってくれるギャラリーを探そうとしていたのだ。英語も分からない状態で200軒も飛び込みで回ったという。が、結果は200軒すべてに門前払いされたとのこと。それで何か情報はないかと、連絡をもらったのだった。
その話を聞いて、「すごい行動力だなー」と思うのと同時に、正直「短すぎる」とも思った。そりゃーそうだ。英語力はもちろんのこと、ギャラリーが提示している条件を無視して作品の持ち込みをしても、受け入れてもらえないのは仕方がない。しかも、これだけたくさんのアーティストが住んでいるNYで、すぐに帰ってしまうアーティストを相手に、本気で今後の話をしてくれるようなギャラリーってあるんだろうか??…と、そこまで考えてふと思ったのだ。
あれ?私も同じじゃん!!
その人が1ヶ月半でやろうとしていることと、私が1年半でやろうとしていることは、期間の差はあれ、ほとんど一緒なんじゃないだろうか?
ちょっと来て、いいギャラリーを見つけて、すぐ帰る。
それが可能な人もいるだろう。何千軒の中から長く付き合えるようなギャラリーを見つけるっていうのは、ほとんど運だから。最初に運良くアタリを引けば、1年半でも充分に間に合うとは思う。だけど…。
NYに住むいろんなアーティストに会っていくうちに、いつの間にか「ここに根を張って活動してみたい」と思うようになっていたのだ。
たしかにNYで活動していくのは大変なことだ。山のようなチャンスが、どんどん自分の横を素通りしていく感じ。希望と絶望が交互にやってくるし、お金やビザの心配も常にしなきゃいけない。いくら自分の作品に自信を持っていても「やっぱりこれじゃ通用しないんじゃないか」「この先どうなるんだろう?」なんて弱気になることも、しょっちゅう。
だけど、それでも笑って暮らしている人たちがいる。そんな人たちみたいに、私も強くなりたいなーと思うのだ。もちろんここでなくても出来るのかも知れないし、ここにいるからといって、そんな風になれるとも限らない。それでもやっぱり、やりたいんだからやってみよう、と思った。たった半年の滞在で、いつの間にかNYとここに住む人たちが大好きになっていたのだ。
これを魔力と呼ばずして、なんて呼ぶのだろう。
そう、たしかに、NYには魔力があるらしい。