とある週末、チェルシーのギャラリーの人たちから「小旅行に行かないか」というお誘いをいただいた。
車で1時間半ほどのところにある小さな町に、1泊2日の息抜き旅行に行くのだけど、もう1人車に乗れるから、どう?という楽しそうなお話。
もちろん!とふたつ返事でOKし、着替えを入れたバッグを持って、待ち合わせの場所に向かった。
待ち合わせはダウンタウンのドーナツ屋。
時間通りに到着してギャラリーのオーナー・アニータさんと落ち合った。アニータさんはネパール出身の、細身でサバサバしたとてもステキな女性。優しくて働き者で、古き良き「良妻賢母」の雰囲気を持ったデキル女だ。
しかも日本語まで話せちゃう。「ところで今日はどこに行くんですか?」と聞くと「私もよく分からないんです」とのこと。「何をしに行くの?」と聞いても「それも〜えへへ」と、どうやら仕事以外の場面では、随分のんびり屋さんのようだ。いつもと違ってゆったりムードの彼女に、私もすっかり和んでしまった。
しばらくするとメンバーが集まった。
アニータさん、彼女の旦那さんで日本人キュレーターのエイさん、その友人で映像クリエイターのタイラーさん。
タイラーさんがこの旅のオーガナイザーで、これから行く町は、大学時代にタイラーさんが住んでいたところなんだそう。同窓会のための小旅行に、他3人が便乗したというかんじだ。

やっと旅行の全貌が見えてきたところで早速出発。
行き先はマンハッタンから北へ150km、ニューヨーク州ニューパルツという町。
驚いたのは、マンハッタンから橋を渡ってブロンクスに入り、そこから数十分北上すると、あんなにビルだらけだった風景が、あっという間に山だらけに一変してしまうのだ。建物なんて1つも見えない!高台から眺めると、360度地平線が見渡せちゃったりする。NY市(「シティ」と呼ばれる、主にマンハッタンのこと)って、アメリカの国土に比べてほんとに小さい範囲なんだなあ〜と実感。東京でも、郊外に向けて高速を走ると山は見えてくるけれど、次の町までの距離が短い分、「大自然!」となるまでにはかなりの時間がかかるような気がする。
音楽を聞きながら、ちょっとおしゃべりしている間に、あっという間に車はニューパルツに到着。
降りたところは、大きな山を登ったところにある駐車場。なんとこれからハイキングをするんだという。準備万端のタイラーさんのスニーカー姿はいいとして、アニータさんとエイさんは革のブーツ、私はなんとサンダル履きという軽装だった。
NYに着いてまだ間もない私は、外出用のヒールの高い靴と部屋履き用のペッタンコサンダル(ほとんどスリッパ)しか持っていなかったのだ。
さすがに旅行にヒールは不便だろうとサンダルで来てみたのだけど、まさか山歩きをするとは…!とはいえ山道は適度に整えられていて、ブーツもサンダルもそれほど問題はないようだ。
むき出しの岩が切り立っている山は、ロッククライミングを楽しむ人たちで賑わっていた。
空気はきれいだし天気はいいし、何より山からの壮大な眺めが素晴らしかった。
見渡す限りの大平原。タイラーさんのガイドも完璧で、アメリカが広いっていうのを自分の目で見て、実感したかんじ。
豊富な酸素のせいで都会っ子たちのテンションも上がりまくり、ロッククライマーの真剣な姿にさえ意味もなく爆笑してしまう始末。
そんな時、向こうから1人の男性が歩いてきた。
キャンプでもしているのか、他の登山客と比べてどこか軽装で場慣れした様子。山ですれ違う時に挨拶を交わすというのは万国共通みたいだけど、彼は満面の笑みで「ハリハーリー!」と大声で挨拶してきた。
聞き慣れない言葉に、みんなでタイラーさんに解説を求めると、「えと、あれはヒッピーです」とカタコトの日本語で説明してくれた。こんなところに生息していたのか、ヒッピー!!「ハリハーリー」とは「元気?」というような意味の言葉らしいのだけど、今は古すぎて誰も使わないそうだ。
そんな言葉を使っちゃうヒッピーの生態、かなり気になる。
たっぷり酸素を補給した一行はニューパルツの町へ向かった。
本当に小さな小さな町で、メインの通りにお店が並んでいるほかは、住宅地が少しあるくらいだ。その町のはずれのモーテルに車を止め、4人でこっそり2人部屋にチェックイン。アメリカのベッドは大きいので、おデブちゃんでないかぎり、2人ずつ寝ても全然問題ないのだ。
その後は近くのレストランで夕飯のハンバーガーを食べビールを飲んで、プールバーでビリヤード、というアメリカンフルコース。こうして大自然の中での楽しい夜は更けていったのでした。