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「旅の指さし会話帳」で活躍するイラストレーター・北島志織さんの野望、それは“画家”になること!
ついに2007年3月下旬からスタートしたニューヨーク生活。アーティストとして、新米ニューヨーカーとして、日々のなかでの発見や感じたこと、活動の様子を綴ります。【毎週月曜日更新予定】

配信 : 情報センター出版局 http://www.4jc.co.jp/
「旅の指さし会話帳」公式サイト http://www.yubisashi.com/
カテゴリ:はじめてのリンゴ
  • はじめてのリンゴ
    [ 2007-02-06 12:53 ]
はじめてのリンゴ
モクモクと地下から上がるスチームの湯気、高層ビルにイエローキャブ。1ブロックごとに街並みと人種が入れかわり、たくさんの言語がとびかう。テレビや映画でよくみかけるNYの風景だ。

3週間のNY滞在を終える頃になると、私のなかでNYの印象は変わっていた。特に「この街のマナー」が気に入ったこと。
たとえば朝のラッシュアワーの地下鉄。
東京の満員電車と違って、それほど急がない人は無理に人を押してまで乗車しようとしない。もう少し空いた電車が来るまで待っている人が多いのだ。
しかしある朝、背の高いちょっとおデブのおじさんが「乗るよ!乗るよ!」と叫びながら車両に駆け込んできた。他の人を押して少し無理に乗り込みながらおじさんは「押してごめんよ、みんな。急いでるんだ。次の駅で降りるから、1駅だけ辛抱して」とまわりの人たちに大きな声で謝っていた。そしてあちこちから「いいよ、いいよ」「気にしないで」と声がかかる。なんだかほほえましくて、こっちまで笑顔になった。
たまたま気のいいおじさんだったのかも知れないけど、私にとって印象深い出来事だった。
何気なく道をゆずった時に必ずかけられる「ありがとう」の言葉や、バスの中で隣の人と「今日は寒いね」と交わす何気ない会話もそう。元々、文化の違う同士が暮らす町だから生まれた習慣なのか、声に出して気遣いを表現することは、見知らぬ相手を前にすると、とても安心するものだ。

しかし正直、NYの何が刺激的なのが、いまいちよく分からなかった。
夜遊びだったら東京でもできるし、ミュージカルやジャズにはあまり興味がないし。
NYで目にした作品たちも、素晴らしいものもあればそうでないものもたくさん。この比率は東京と大して変わらない。私にとっては東南アジアの旅のほうが、はるかに刺激的なんだけどなぁ、なんて思った。
旅行中、知り合った自称アーティストのウィリアムはこう言っていた。
「この街は、ただ生きている人にとっても、住みやすい場所なんだ」
彼は自分が昔描いた絵と他人の絵のコピーと、中国製の指輪をごちゃまぜにして、路上で売って生活していた。ひどいお酒の匂いがしていて、時折ロレツも怪しくなる。知り合った印にと、プレゼントしてくれた3つで5ドルの石の指輪は、なんと1週間もしないうちに全部割れてしまった。本当か嘘かわからないけど、昔はSOHOのギャラリーを友達を共同運営していたこともあって、個展はないけど企画展には出したことがあるんだそうだ。
たとえば数年後の私が、彼のようになる可能性だってあるんじゃないか。そりゃーもちろんゼロではない。
もしかしたら何か勘違いしてたのかな、と少し不安になった。
みんなが夢を追う街には、それだけ夢に疲れた人たちがいるのは当たり前だ。だけどそうして「ただ生きている人」ばっかりの街だったら、嫌だなあと思った。
だけど、世界中からあれだけの人が集まってくるのには、何か理由があるはず。確かに住みやすそうな街だし、住んでみてもうちょっと様子を見てみることにしよう。それでも違ったら、今度こそ違う国に行けばいいや。
自分にそう言い聞かせながらも、移住への現実味が少し薄れかけていた。

そんなニューヨーク下見旅行から帰ってきて、しばらく経った頃のこと。
突然NYチェルシーのギャラリーから、企画展に参加してみないか、というメールが届いたのだ。
HPをたまたま見て連絡をくれたとのこと。もちろん相手とは会ったこともないし、私がNYに住もうとしていることも知らない。まったくの偶然!!
驚きつつも、「きっとNYが呼んでるんだ!」と胸が躍った。
移住よりも前に作品を展示する機会があるなんて、予想外のことだった。誰でもかじっていいリンゴ:Big Appleが早くもかじってみろよーと言ってくれたのだ。
そしてこの企画展に向けて、気持ちは一気にNYへと傾いていった。

それから企画展開催までの数ヶ月、こんなに絵とゆーものと向き合ったことはなかったんじゃないかしら。「イラストレーション」と「自分の作品」の違い、自分らしさ、絵を描き続けるってこと……。今まで惰性や習慣で続けていた技法に少し行き詰まりを感じていた私は、思いきって手法を変えてみた。
試行錯誤をしながらもなんとか「描いていて楽しい」手法にたどりつき、何枚も失敗をくり返して出来上がった7枚は、「今の私の精一杯だ」と自信を持って言えるものだった。
もちろんまだまだ満足には程遠いけど、そんな風に思える絵を描けたことが、とっても嬉しかった。
by webmag-d | 2007-02-06 12:53 | はじめてのリンゴ